あなたは、大手化学素材メーカー「ネオケミカル・ホールディングス」の経営企画本部に新設された「事業戦略推進室」の室長(課長職)に就任したばかりです。
現在、会社は中期経営計画の柱として「サステナブル素材事業」の立ち上げを最重要課題としています。しかし、この新規事業の主導権を巡り、既存事業で圧倒的な実績を持つ営業主導の「機能性ポリマー事業部」と、最先端技術を持つ研究開発主導の「先端マテリアル開発部」との間で深刻な対立が表面化しつつあります。
あなたの直属の上司である鈴木経営企画本部長は、今日から1週間の海外出張で不在です。あなたは室長として、両部門の利害を調整し、全社最適の観点からこの新規事業を軌道に乗せるという重責を担っています。
【制限時間】
これから5分で、20件の未処理案件に対応する必要があります。以下のメールは、そのうちの1件です。
差出人: 山本 毅(機能性ポリマー事業部長)
CC: 伊藤 聡(先端マテリアル開発部長)
日時: 20XX年10月26日(木) 09:05
件名: 【至急・重要】サステナブル素材事業の推進体制に関する緊急提言
事業戦略推進室
高橋 室長
いつもお世話になっております。
機能性ポリマー事業部の山本です。
表題の件、単刀直入に申し上げます。現在、先端マテリアル開発部が主導しているサステナブル素材事業のプロジェクト計画は、顧客ニーズを完全に無視した「技術のための技術」に陥っており、このままでは事業化の失敗は火を見るより明らかです。
先日も、当社の最重要顧客であるグローバルモータース社から、同計画のコンセプト素材について「価格と性能のバランスが悪く、実用化は困難」との内々のフィードバックを受けております。彼らが求めているのは、ラボレベルの最高性能ではなく、量産ラインに乗せられるコストと信頼性です。
我々の事業部には、長年培ってきた顧客網と市場ニーズを的確に捉える営業ノウハウがあります。添付の資料は、我々が独自に市場調査を行い、グローバルモータース社の要求仕様を基に再設計した事業計画案と収益シミュレーションです。開発部が提示している楽観的な計画がいかに現実離れしているか、ご理解いただけるかと存じます。
つきましては、本プロジェクトの推進体制を抜本的に見直し、プロジェクトの主導権を我々、機能性ポリマー事業部に移管することを強く提言いたします。この件は、今月末の経営会議で正式に議題として提案する所存です。
高橋室長には、本件の重要性をご理解いただき、早急にご判断の上、出張中の鈴木本部長の事前承認を取り付けていただきたく、お願い申し上げます。このままでは、当社にとってまたとないビジネスチャンスを逸することになる、と強く申し添えておきます。
以上、よろしくお願いいたします。
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山本 毅
機能性ポリマー事業部 事業部長
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回答と解説を見る
正解:C
選択肢Cがベストです。
選択肢Cがベスト
この案件は、単なる業務上の意見対立ではなく、組織のサイロ化とプライドがぶつかり合う、極めて政治的な問題です。このような複雑な利害調整において、管理職には「問題解決のプロセスを設計し、主導する能力」が求められます。その観点から、選択肢Cが最も戦略的かつ効果的な初動と言えます。
- Aの欠点: 担当者レベルからのヒアリングは重要ですが、時間がかかりすぎます。山本部長が「至急」「経営会議で提案」と期限を切っている状況で、このボトムアップアプローチはスピード感に欠け、意思決定の遅延と見なされます。また、部門長クラスの政治的な対立の核心は、担当者レベルの情報だけでは掴みきれません。
- Bの欠点: 最も危険な選択肢です。何の準備もなく感情的に対立している両トップをいきなり引き合わせても、建設的な議論にはなりません。非難の応酬に終わり、対立が決定的になるリスクが極めて高いです。仲介役であるあなたのファシリテーション能力への信頼も失いかねません。
- Cの優位性: 以下の点で最も優れています。
1. 情報の質と量の確保: まず問題提起者である山本部長から直接話を聞き、彼の主張の根拠(特に添付資料)を深く理解することが、全ての始まりです。
2. 公平性と信頼の構築: 一方で、CCに入っている伊藤部長にもすぐに連絡し、「山本部長からこのような提言があった。あなたの意見も聞きたい」と伝えることで、公平な立場であることを示し、信頼を得ることができます。これは「寝技」や「裏工作」ではなく、健全な「根回し」です。
3. 議論の土壌作り: 両者から個別に情報を得ることで、感情的な部分と客観的な事実を切り分け、論点を整理できます。これにより、後に開催するであろう会議を、実りあるものにすることができます。
結論として、選択肢Cは、対立の激化を避けつつ、問題の核心に迫るための情報を収集し、関係者との信頼関係を構築し、あなたが問題解決の主導権を握るための、最も賢明な一手です。
重要度:高 / 緊急度:高
この案件の重要度と緊急度は以下の通りです。
- 重要度:高
中期経営計画の柱である新規事業の成否に直結する問題です。ここで推進体制の構築に失敗すれば、会社全体の成長戦略に大きな打撃を与えかねません。また、社内の有力部門同士の対立であり、放置すれば組織全体のモラル低下にも繋がります。 - 緊急度:高
山本部長が「至急」「月末の経営会議で提案」と具体的なアクションと期限を提示しています。何も対応しなければ、準備不足のまま経営会議で対立が表面化し、事態が紛糾・硬直化する恐れがあります。また、CCで伊藤部長にも送られており、既に関係者間の緊張は高まっています。迅速な初期対応が求められる状況です。
したがって、この案件は「重要度:高、緊急度:高」に位置づけられ、最優先で取り組むべきマターです。ただし、緊急度が高いからといって、拙速な判断(選択肢Bのような)に飛びつくのは誤りです。このような案件こそ、緊急に対応を開始しつつも、行動そのものは冷静かつ戦略的であるべきという、高度な判断力が試されます。
管理職として、このような深刻な部署間対立に直面した際の心構えと、アセスメント試験で評価される行動原則は以下の通りです。
マインドセット
- 1. 全社最適の審判であれ: あなたの役割は、どちらかの部門の代弁者になることではありません。常に「会社全体にとっての最適解は何か?」という視点から、物事を判断する公平な立場を貫く必要があります。この中立性が、あなたの発言の信頼性を担保します。
- 2. 「問題」と「人」を分離せよ: 対立が激化すると、いつしか論点が「誰が正しいか(Who is right?)」という個人のプライドのぶつかり合いにすり替わります。管理職の仕事は、議論を常に「何が正しいか(What is right?)」という本質的な問いに戻すことです。感情的な対立に巻き込まれず、客観的なデータとロジックに基づいて議論を整理しましょう。
- 3. 解決策(What)の前に、プロセス(How)を設計せよ: 優れた管理職は、いきなり「A案とB案のどちらが良いか」という結論を迫るのではなく、「この問題を解決するために、まず誰から話を聞き、どのようなデータを集め、いつ、誰と、何を議論するべきか」という合意形成に至るまでの「プロセス」を設計し、関係者に提示します。プロセスへの合意が、結果への納得感に繋がります。
アセスメントでの加点ポイント
- ステークホルダー分析: メールを読んだ瞬間に、登場人物(山本部長、伊藤部長、鈴木本部長、あなた自身)の立場、権限、そしてそれぞれの「利害(何を恐れ、何を得たいのか)」を瞬時に分析する視点が評価されます。
- 政治的感受性と根回し: 公式な会議の場で物事を決めるのは最終段階です。その前に、個別のコミュニケーション(根回し)を通じて情報を集め、相手の真意を探り、落としどころを探るという、組織の力学を理解した動きが高く評価されます。
- 時間軸のコントロール: 「至急」という言葉にただ反応するのではなく、「今日中にやるべきこと(初動)」「今週中にやるべきこと(情報収集と論点整理)」「月末までにやるべきこと(合意形成)」といったように、時間軸を区切って戦略的に行動計画を立てる能力が重要です。

